11月17日付けの秋田魁新報で、北朝鮮に対する弾道ミサイル防衛の新規装備となる地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の導入に関し、秋田市新屋町の陸上自衛隊新屋演習場と山口県荻市の陸自むつみ演習場が候補地となっている旨報道された。
同紙面によれば、「イージス・アショア」は、米国で開発され、2基で日本全土をカバーできるとされ、2023年度の運用開始を目指す。本年末にかけて編成する18年度当初予算に導入に際する設計費を盛り込む考えであるとのことである。
また、「イージス・アショア」の配備に関して、秋田県の佐竹敬久知事は、「(新屋演習場は)国有地であり、県としてどうこう言えることではないが、説明会を開くなどして地元の理解度を深めながら進めてもらわないと困る」と述べ、秋田市の穂積志市長も、「秋田市に配備されるとすれば、事前に国から市に対して正式な話があると思う。その上で対応したい」とコメントした。
その後、12月12日付けの産経新聞によれば、防衛省は、自民党安全保障調査会などの合同会合の場で、「イージス・アショア」の取得費に関して、当初予定していた約800億円を上回る1千億円弱になるとの見通しを発表した。政府は、「イージス・アショア」導入に関して、今月19日に閣議決定する方針である。
秋田県の「イージス・アショア」配備に関して、県民からは賛成と反対、それぞれの声が上がっている。各報道について取りまとめると、賛成派は、「緊迫化する北朝鮮情勢の元、国家の安全保障のために配備は止むを得ない」というものが殆どで、反対派は、「本県が攻撃対象になるのではないか」「電磁波の影響が心配」というものが多い。そもそも「(『イージス・アショア』)が」本当に北朝鮮の弾道ミサイルを打ち落とすことができるのか」といった不安の声も寄せられている。
ここで「イージス・アショア」について詳しく言及する前に、わが国のミサイル防衛システムの現状を見てみたい(以下、「2017年10月4日付マイナビニュース(井上孝司)日本のミサイル防衛体制の実体を探る」参照)
弾道ミサイルは大砲と違って、真上に向けて発射する。発射した後で、事前に入力した目標に向かう軌道に載せるために方位と上昇角を変化させていく。 ということは、発射がわかった瞬間には、ミサイルを発射したということしかわからない。その後の飛翔経路の変化を追わなければ、どちらに向けて飛翔しているのかはわからない。 そこで頼りになるのが、レーダーである。相手が小さく、しかも飛翔経路を精確に突き止めないと着弾地点の予想もままならないので、分解能が高い(精度が高い)、高い周波数帯の電波を使用するレーダーを使う。 アメリカ陸軍は、青森県の車力分屯基地と京都府の経ヶ岬通信所に、Xバンド・レーダー「AN/TPY-2」を配備している。もともとTHAAD(Terminal High-Altitude Area Defense)弾道弾迎撃ミサイルを管制・誘導する目的で開発されたレーダーだが、ソフトウェアの変更による、弾道ミサイルの追尾に専念する動作モードを追加した。 地図を見るとわかるが、車力も経ヶ岬も日本海に面した位置にあり、西~北西方向の監視に適していることがわかる。 一方、航空自衛隊は領空侵犯を監視するために、全国をくまなくカバーするレーダー網を張り巡らしている。基本的には航空機を探知するためのレーダーだが、4カ所(大湊、佐渡、下甑島、与座島)のレーダーサイトに配備している大型レーダー「J/FPS-5」は、弾道ミサイルの追尾能力も持たせてある。 また、7カ所(当別、加茂、大滝根山、輪島、経ヶ岬、笠取山、背振山)にある「J/FPS-3」レーダーに後付けで弾道弾追尾能力を持たせて、J/FPS-5を補完している。 先日の「火星12」の発射では北日本を通過していったから、大湊のJ/FPS-5や、加茂のJ/FPS-3が追尾していたと考えられる。余談だが、大湊のJ/FPS-5は大湊の駅前から見えるところにある。 このほか、米海軍や海上自衛隊がBMD対応のイージス艦を洋上に展開させていれば、それらイージス艦のレーダーも弾道ミサイルの探知・追尾が可能である。 こうしたレーダーによる追尾データは、アメリカ軍が運用するC2BMC(Command, Control, Battle Management and Communication)システムに上げられる。それによって飛翔経路を突き止めると初めて、着弾地点の予想が可能になる。発射の瞬間に着弾地点まで予測できるわけではない。 そこで得られたデータが日本政府に回ってきて、「Jアラート」によって一般市民レベルまで流れてくる仕組みである。C2BMCの本業は、弾道ミサイルの探知・追尾と交戦の管制だ。そのうち交戦の管制については、着弾地点の予測に基づき、最適な地点にいると考えられる迎撃資産にデータを送り、交戦の指令を出す。
上記を踏まえ、改めて「イージス・アショア」について見てみたい。
「イージス・アショア」導入のメリットとデメリットについては、諸説あるが、以下のとおりである。
「イージス・アショア」は、地上配備型の弾道ミサイル迎撃システムであり、射程距離は約2,500km。同様のミサイル迎撃システムであるPAC3(パトリオット)の射程距離は20km。THAAD(サード)は200kmであることを鑑みると、その射程距離は群を抜いている。また、地上配備であるため、海上で運用されるイージス艦に比べて常時警戒が容易で、高度500km以上の上空で弾道ミサイルを迎撃できるため、破片の飛散の問題も軽減されると見られる。
本県では、2008年、弾道ミサイル対策として、男鹿市の航空自衛隊加茂分屯基地のレーダーサイトに、固定式警戒管制レーダー装置J/FP-3改が配備されている。新屋演習場の「イージス・アショア」の配備と併せることで、日本海を取り巻くわが国ミサイル対策はより一層厚みを増すだろう。
一方、「イージス・アショア」の問題点としては、THAADやPAC3と異なり、据え置き型で移動できないため、攻撃の標的になりやすいという点が挙げられる。また、新屋演習場は、日本海に近く、陸自施設であるため、警護しやすいというメリットはあるが、住民の居住地と近く、県民に危害が及ぶ可能性はある。
このことから、政府としては、「イージス・アショア」の配備に関して、国会で議論を重ねて国民に説明を尽くし、住民の不安を取り除くよう務めるべきである。
なお、丁寧な説明としては、下記内容が含まれるだろう。
- 政治状況における逼迫性
- 国防に関する県民への協力の投げかけと議論喚起
- 迎撃体制(イージス艦発射、PAC3+イージス・アショア)がベストであるとの比較合理性、有効性
- 秋田県設置が有利であるとの合理性(地政学的、既設施設の活用等)
- 設置に伴う危機管理(設置所に対する反撃と被害)
- 関連機関、関連組織、市民レベルなど各層への説明
以上
