なまはげ

提言・意見・寄稿

「秋田で活躍する外国人研究者」へのインタビュー~第一回 秋田県立大学教授 邱建輝氏~

説明

グローカル政経総研では「世界の視点で地域を考える」との方針で「秋田で活躍する外国人研究者」へのインタビュー企画を考え、この度初回として、複合材研究の第一人者である秋田県立大学の邱建輝教授にたいしていろいろインタビューを試みました。先生は来日以来35年以上になり、現在稲わらを原料とした生分解性プラスチックの研究に注力をしておられ、環境にやさしく、米どころ秋田に十分に存在する稲わら資源の有効利用を考えた、研究となっています。世界的な環境問題を見据え、郷土秋田の資源を有効活用する研究姿勢や、日中の懸け橋として活躍する邱先生には参考とすべき点が多々あると確信をしております。

グローカル政経総研 理事長 佐藤幸徳

 

邱建輝先生ご略歴

1992年3月 金沢大学博士課程修了

1992年4月 富山県立大学助手

1999年4月~現在 秋田県立大学助教授、教授

 

インタビュー内容

佐藤幸徳(以下、佐藤):

私の主宰するグローカル政経総研では、「世界の視点で地域を考える」との方針のもとで活動しています。直近では元「秋田県産業技術総合研究センター」(現「秋田県産業技術センター」)所長の斎藤昭則氏に「水素社会への展望と課題」と題した寄稿を頂いておりました。現在、グローカル政経総研では、「秋田で活躍する外国人研究者」へのインタビュー企画を考えており、邱先生の研究実績を見ると、まさにこの企画にぴったり、寄り添っていると感じましたので、この度先生からお話をお聞きする運びとなりました。

早速ですが、先生の来歴をご紹介頂けますでしょうか。

 

邱建輝先生(以下、邱):

私は35〜6年前に来日して金沢大学の博士課程を修了して後、富山県立大学で7年間勤めました。秋田県立大学には大学ができた1999年から実に20年以上在籍しています。今の大学生よりも長く秋田にいることになります(笑)。これだけ長く日本にいるので「外国人」という感覚はあまりありません。

 

佐藤:

先生が日本にいらっしゃった思いや理由をご紹介頂けますでしょうか。

 

邱:

私が留学した当時の中国は改革開放の時代で、世界に目を向け始めていたころでした。中国でも留学生をどんどん派遣する方針でした。私は外国のことはあまり知らなかったので、「外国を見てみたい」「勉強してみたい」という気持ちが強かったです。当時の中国の若い人は皆同じような気持ちだったと思います。今の日本ではそれほど多くないと思いますが、日本が今ほど発展していなかった数十年前は、たぶん「外国を見てみたい」という若者がたくさんいたでしょう。中国にもそういう時代があったのです。特別な理由があったわけではありません。

 

佐藤:

色々な国がある中で、日本を留学先に選んだ理由は何でしょうか。

 

邱:

中国ではアメリカに行っている人が多かったと思いますが、海外留学している人自体少なかったので、自分で選んだ…というよりは自然な流れでした。日本は近いし、同じアジアだし、私は大学の頃に日本の文化にも接触していたので、そのような影響があったと思います。

 

佐藤:

そうですね。余談ですが、私は数年前まで秋田県立大学で勤務していましたが、日本の学生さんに「資金援助するから留学してみないか」と言っても遠慮する人が多かったです。50年ほど前になりますが、私が若い頃は誰もが「海外に行きたい」「外を見たい」と思っていましたので、先生の仰ることはわかるような気がします。今、先生はご家族と一緒に秋田に住んでいるのですか。

 

邱:

そうです。妻も来ていますが、来ているというか妻も30年以上日本で暮らしています。家族と秋田で暮らしています。

 

佐藤:

日本・秋田に対してどういう気持ちを抱いていらっしゃいますか。

 

邱:

どうでしょうね。日本に来た当時はいろいろ感じたと思いますが、思い出せません。こちらの生活に溶け込んでいるので、秋田の人と変わらないですよ。まあ金沢・富山・秋田と来ているので、日本海側でだんだんと寒くなっている、という気はします。

秋田は冬が長い印象です。単純な降雪量だと富山の方が降っていましたが、秋田は積もる期間が長いのです。そういう意味で秋田の冬は不便だなと感じます。飛行機が欠航したり電車が止まったり、東京に出張しても戻れないこともあります。なので、冬場は出張を避けたいですね。ただ、夏秋冬と季節がはっきりしていて、比較的春が長いのが秋田の良いところです。このような季節だと生活しやすいですね。

 

佐藤:

秋田県民の人柄はいかがですか。

 

邱:

秋田は、山形と同様に農業県なので、県民の人柄が良いと思います。自分が外国人であるとか、県外から来た人間であるとか、あまり感じません。そういう意味で秋田の人は優しいと思います。かえって東京や大阪の方が外から来ている人に違和感があったりしますが、秋田にはそれがないです。まあ、内心では、外の人間に警戒しているかもしれませんが(笑)

 

佐藤:

ありがとうございます。先生の研究内容をご紹介頂けますでしょうか。

 

邱:

研究はおもにプラスチック関連です。秋田に来てからは、主に生分解性プラスチックの研究をしています。稲わらとか植物の廃棄物を利用した生分解性複合材を作る研究です。

他にも「プラスチック圧延加工」「導電性プラスチック」「バッテリ用材料」などの研究もしてきました。いろいろな研究をしましたが、基本的にはプラスチックをベースとした研究を展開しています。

 

佐藤:

昨今、プラスチック袋が海洋汚染を引き起こし、世界的な環境汚染問題につながっています。生分解性プラスチックはその対策として有用と思いますがいかがでしょうか。

 

邱:

生分解性複合材料を研究するにあたって、一番に環境問題を考えていました。プラスチック袋の材料はポリプロピレンとかポリエチレンですが、分解されずにずっと残るものです。仰るとおり海洋汚染が問題視されており、毎年約800万トンのプラスチックゴミが海に流れていると言われます。それが壊れてマイクロプラスチックになり、魚が食べることなどで生態系に影響を与えています。

生分解性プラスチックはそのような問題を解決できる可能性があります。生分解性プラスチックは、微生物の働きにより最終的に二酸化炭素と水になります。しかしこれも条件が必要で、海とか水(淡水)の中でも分解できるか…という問題があります。

私の研究室では、数年前から海と子吉川(下記注参照)における生分解性プラスチックの分解性を調べています。昨年この研究に関して、国の科研費も獲得し、「生分解性プラスチックの分解スピードをコントロールできるのではないか」との観点で研究をスタートしました。基本的には「世の中に生分解性複合材料が普及するように」との思いで研究しています。

(注):子吉川とは、秋田県南部の一級河川。

 

佐藤:

お伺いした稲わらを活用した複合材料の研究に関して、研究目標を100とすれば現在はどれくらいでしょうか。

 

邱:

元々稲わらを活用した生分解性複合材料の研究をスタートしたのは、(秋田に来た)20年前からです。当時は生分解性プラスチックの値段が高かったですが、今は安くなっています。今でも普通のプラスチックよりは高いですが、それでも稲わらを入れればコストを下げることができるのではないかと思いました。入れる材料は他にもありますが、せっかくの「生分解性」なので、自然界の植物ー稲わらとか植物繊維ーを使った方が自然界への影響が少なくなると思いました。

今、稲わらを50%入れることに成功しています。30%の試作品もテストしているところです。日常の生活用品とかホームセンターで売られているようなプラスチック容器はほとんどが代用可能です。また、「使い捨て」などの特別な用途の製品にも代用可能となっています。

問題点としては、「ポリ乳酸」(下記注参照)を分解するにはいろいろな条件が必要だということです。稲わらを入れると「ポリ乳酸」を分解するスピードは早くなりますが、完全に分解するには一定温度や湿度が必要になります。それがこれからの課題です。どうすれば「ポリ乳酸」が分解できるようになるかということと、最近だと「ポリ乳酸」以外にも他の生分解性プラスチックがどんどん出ているので、そういった他のプラスチックも考慮しながら複合材料の研究を進めたい考えです。

稲わらを活用したプロジェクトは、ほぼ10年前に環境省の重点プロジェクトに選定されました。その後秋田県からも重点研究として、助成金も支給されています。この稲わらを活用した生分解性プラスチックに関しては特許も出願しています。今後は製品化も視野に、企業とも連携していきたいと希望しています。

(注)「ポリ乳酸」とは植物由来のデンプンや糖を原料とし、化学的な工程を経て製造されたバイオマスプラスチック。

 

佐藤:

このようなものは企業に技術的優位性があるかと思います。また、環境問題ということで今後もニーズが高いと思います。産学で実用化されると面白いですね。

 

邱:

そうですね。基本的に大学の先生は販売ルートを持たないですから、どういう製品にするかなど、企業の協力が不可欠です。

 

佐藤:

私の感覚では、日本でも少しくらい高くても環境に良いものを買おう、といった意識が芽生えてきているように感じます。

 

邱:

国の政策も世の中の流れも、普通のプラスチックを使わないように、という風潮になってきています。ビニール袋も有料化しましたね。生分解性プラスチックを広げよう…という流れになってきていると思います。この流れを受けて、我々のような研究者が頑張って、できるだけ早く実用化や製品化できればと考えています。

 

佐藤:

現在、中国との共同研究は実施していますか。

 

邱:

蘭州大学などいくつかの大学としていました。秋田県立大学は数年前、蘭州大学と協定をむすんでおり、たしか甘粛省は秋田県と協定を結んでいましたね。私も数年前から、向こうの大学(蘭州大学)と兼任教授をしていました。ですが、コロナの関係でしばらく共同研究できていないので、たぶん終わっていると思います。もう1年以上中国には行けていません。

 

佐藤:

先生から見て、日本の複合材料研究のうち、注目すべき分野などはありますか。

 

邱:

研究レベルでは色々な論文を読んできました。色々と素晴らしい研究が日本にはあります。

複合材料でいえば、私は生分解性プラスチックが中心でしたが、この分野の材料開発は、メーカーの方が強い印象です。全体的に応用面は、大学研究者よりもメーカーや企業の方が力を入れています。

大学研究者としては、理論的な研究が多いです。製品開発を向いて研究する人は比較的少ない印象です。この辺りは企業の方がリードしていると思います。航空・宇宙産業関係の研究も色々と展開されていますが、材料の特性や性質、また高度な材料開発など、レベルの高い先端材料を開発している印象です。日本は、一方では先端材料の開発が進んでいるし、あとは民用の生分解性材料が進んでいるとの認識です。

 

佐藤:

秋田県立大学の鎌田理事(現顧問)が、以前秋田県産業技術センター在職中に大曲の花火の玉皮に生分解材料を使う研究をしていらっしゃいました。ご存知ですか。

 

邱:

私もその研究を知っており、これも生分解性複合材料の一つで「ポリ乳酸」も入れていました。花火の玉皮にもいろいろな特性が必要で、さらに良い特性の材料がないか研究しているところです。

 

佐藤:

先生は日本と中国の複合材料研究者間の橋渡し(日中複合材料交流会)としてご活躍中です。中国の複合材研究の興味あるテーマや発展状況についてはどう思われていますか?

 

邱:

やはり、生分解性複合の実用化に関する研究はこれから積極的推進し、プラスチックによる環境問題をより早く軽減させることは重要ではないかとおもいます。

 

佐藤:

先ほどコロナ禍の状況で中国との共同研究は大変なよう、とお伺いしましたが、今後のご計画などあればご紹介ください。

 

邱:

自由に海外出張が可能になったら、中国の大学、研究所などとの共同研究を再開したいと思います。

 

佐藤::

今日はどうもありがとうございました。最後に学生さんや若い人たちにメッセージをいただきたいのですがいかがでしょうか?

 

邱;

地球資源、環境問題は我々の生活と深くかかわっており、資源の節約や廃棄物のの削減を心掛けて頂ければと思います。

 

以上