なまはげ

提言・意見・寄稿

秋田の地域興しには冒険を!

私ども、グローカル政経総研は多くの方々からご意見やご提案をいただくようにしております。この度新岡嵩氏から、秋田の身近な素材を扱い、観光物語を展開することのご提案をいただきました。

新岡 嵩

【著者プロフィール】

航空宇宙技術研究所研究室長 東北大学流体科学研究所教授 秋田県立大学理事・副学長 筑波大学・カリフォルニア大学・韓国高等科学技術大学客員教授 東北大学・秋田県立大学名誉教授 日本機械学会・日本エネルギー学会・日本航空宇宙学会・日本燃焼学会・国際燃焼学会の各種学会賞受賞
文部省、科技庁、総理府、文科省等々の各種委員など

趣味は水彩画、読書、映画鑑賞、旅行など


【内容】


私は小中学校から高校に至るまで秋田で育ち、大学入学から東北大学教員定年まで仙台で過ごしてから秋田に戻って7年間(2004.4~2011.3)秋田県立大学に勤めました。燃焼機器やエネルギー関連の企業との共同研究など手がけておましたが、秋田の企業や人材育成との関わりは秋田県立大学の地域貢献などの役職を通じて行っておりました。その間を通じて感じたことを書いてみたいと思います。

秋田県の農業産出額に占める米の割合は53%(全国17%)で、隣県と比べて凶作が少なかったせいでしょうか米に極めて偏っていますし、その中でも「あきたこまち」の生産に偏っています。工業生産額のトップは1/4を占める電子部品・デバイス類であり、積年の念願である最終的に消費者に渡る製品ではありません。林業は平成に入ってからの落ち込みがひどく、かっての活気は見られないなど、秋田県の経済には良い材料は見当たりません。もっと身近な見方で秋田県を眺め、主に観光について方策がないか考えてみたいと思います。

隣県で良く言われましたのは「秋田の人だば人がいいもんな」でした。決して誉めている訳ではなく、「人が良すぎて大丈夫かな」と言われているような感触を受けておりました。気になる例は数えきれないくらいにあります。

鳥海山麓で育った秋田由利牛の仔牛が売られていき、成牛になってからあの有名な神戸牛や松坂牛などとして食されると聞いたことがあります。何となく損をしているような気になるのです。京都名物として食べられているジュンサイは秋田産が多いと聞きますし、鳥海山原産のリンドウが岩手県で改良されて今や生産高日本一だとも聞きます。お酒を造った後に出る酒粕から米糠やとぎ汁に至るいわば排出物が、それが売れたから良い訳ではないのです。酒粕以外の残存物は県外に出てせんべいなどが作られているらしく、県内では利用できないのかなと思ってしまいます。

山形県との県境沖に浮かぶ飛島は、江戸時代は秋田県側の藩の所有だったものがいつの間にか山形県側になっています。最も奇異なのは鳥海山頂上付近の県境線で、頂上周辺だけが山形県側に属するように引かれています。

青森県との県境にある久六島は海産物が豊富な島で、明治時代から両県が漁業権を争った経緯がありましたが、戦後になって青森県所属に決定しております。十和田湖の県境も明治以来未決でしたが、わずか10年前に決定はしたものの、どう見ても両県を比較すると秋田県側の観光資源は青森県側に比べればほとんどありません。白神山地も両県側を歩いてみましたが、観光資源のほとんどは青森県側です。八幡平も然りで、私たちがトレッキングして楽しめる領域はほとんどが岩手県側ではないでしょうか。

しかし、果たしてこれからの時代、のんびりもしていられません。いま日本で人口の減少割合が最も高いのは秋田県です。人口はすでに100万人を切りましたし、子供たちは働き場所を求めて一層県外に出てしまいます。全国学力試験の成績はピカイチですので、「秋田県の人は凄い」にイメージを切り替えることを目論みませんか。

昔から工場誘致が金科玉条の如く叫ばれ邁進しましたし、その成果はもちろん大きかったことは間違いありません。しかし、残念なことに相手の都合次第ということがありますので、必ずしもこちらの頑張りが功を奏するとは限りません。しかも秋田県が必ずしも工場誘致に適した環境が整っていた訳ではありませんでした。例えば、気候、交通、市場など相対的に不利だったと言えるでしょう。自ら技術開発や特許出願などを狙うのはどこの県でも行っていますし、どこの県でも著しい成果が直ぐには表れませんので地道に進めるしかありません。県立大でも様々な地域貢献をしてきましたが、決定的なものがあるとは言えません。

より思い切ったことを考えてはどうでしょうか。例えば、秋田は首都圏などからどのように見えているかを考えてみて下さい。恐らく、田舎、雪国、稲作、地酒、・・・などが第一印象で、華やかで刺激的なものは皆無です。「僻地」などとは言われたくありませんが、先方から見れば僻地なのです。むしろ、真逆の発想で僻地といった方が関心を引きそうに見えます。ごみごみした所に住む都会人は僻地に憧れがあるのです。

例えば、秋田として目指したいものに、極東ロシアとの経済交流、植物工場、漁業と共生する洋上風力発電、北前船復活観光、雪の活用、休耕田の活用、電池などエネルギー貯蓄技術などの推進や開発が考えられますが、いずれも至難で即効性はありません。即座に思いつき即座に革新的に推進できそうなのは月並みに見える観光しか見当たりません。

秋田は素晴らしい観光の目玉がいくらでもありますが、それぞれが点として存在していて繋がっていません。観光庁の統計によれば、東北地方では観光地点は秋田県が最も多いのに観客数や観光消費額が最低なのです。観光地点をどう繋げるかを議論しているのでしょうか。角館を訪れた人は一様に絶賛しますし乳頭温泉の湯は抜群ですので、常々思っていましたのは、角館―田沢湖-乳頭温泉をセットにした観光企画はもっと徹底的に宣伝すべきです。あきた芸術村も含めてこれほど様々なものが一堂に会している観光地は稀有です。春の山菜採りや秋のキノコ狩り、農業体験や田舎暮らし、濁酒(どぶろく)作りとかハタハタ寿司作り、秋田工芸品の作成などができ、幾重にもトレッキングルートを整備した大規模な古民家風長期滞在型の安価な施設をこの地域のどこかに作れないでしょうか。冬でも角館の冬景色、温泉、スキー場など魅力的なものは十分にあります。特に台湾以南からの観光客を狙いましょう。田沢湖の観光施設は劣悪ですので徹底的な工夫が求められます。一周しても車を止めて眺めて休んだりする場所はほとんどありません。キャンプ地も1か所しかないでしょう。高い所から湖全体を眺められる個所は1か所ありますが、観光客への宣伝は皆無といっていいでしょう。絶滅した「クニマス」を増殖して釣りができるようにできないのでしょうか。

いつも驚かされるのは、男鹿に泊まると生きのいい魚が食べられるかと思えば干物の焼魚が出てきたり、乳頭温泉に行くと美味しい山菜が採れているはずなのに山菜は全く出てこなかったり、秋には天然のキノコが全く出てこなかったりします。地元の方々に月並みなものでも都市部から出てきた人には珍しい食材に映ることを心掛けてほしいのです。例えば「(栽培)北限のお茶を楽しみ、北限の自生椿を愛で、北限トラフグを味わいませんか」などのような秋田独特のものをもっと強調してはどうでしょうか。北限のものはまだまだありますので、僻地も合わせてそれを生かす工夫も不足している気がします。そして、東北は全般的に、特に秋田は殿様商売と言われるほど客扱いは下手ですので、他県から来る人にも分かるような接待を心掛けるべきです。

いつも感じていましたのは、講演を聞き終わったり会議が終ると皆で楽しく和気藹々とお酒を飲んで、何となく仕事をした気持ちになってしまうことが多いように思います。これまで様々な工夫をしてきたでしょうし、どうにもならない要素が多かったことも頷けますが、秋田県の中には他と違ったことをして成功している方を見かけるのも事実です。普通のことをしていては負けるという感覚が必要です。そのためには冒険が必要です。失敗も必要です。県庁には失敗できないという不文律がありますので発想には限界がありますし、冒険は無理になります。お役所頼みではなく自らの発想を大切にしたいと思います。

「これまでもしてきた」というのは錯覚だと思うことです。癪ですがやってはこなかったと思い切ることです。是非に試してみたいのは、よそではやっていないことでかなり冒険だと思われることをまず一つだけチャレンジしてみたいですね。それが弾みになりそうです。