なまはげ

提言・意見・寄稿

日本のジェットエンジン技術史と将来動向 ~その先端技術研究を秋田から発信することを期待する~

日本のジェットエンジン技術史と将来動向
~その先端技術研究を秋田から発信することを期待する~

グローカル政経総研 佐藤幸徳

前文(掲載の説明)

2017年と2018年に東北大学機械系同窓会事務局から「日本のジェットエンジン技術史」の寄稿を依頼され、同同窓会誌に掲載された(1)(2)。
この中で、ジェットエンジンの将来動向で期待される先端技術の中に、材料の他に航空機の電動化や航空エンジンの電動化が長期的技術革新テーマとして登場している。
一方、秋田県においても、航空機産業分野参入に積極的である(3)。また、航空機の電動化の基礎研究でも産学官連携により、「アキタ・リサーチ・イニシアチブ」(ARI)という組織を立ち上げ活動を開始している(4)。
ここに小職による前掲の本稿技術史の解説を転載参考に紹介しておきます。秋田における基礎研究の背景もこの解説で理解がしやすいと思われる。

文献
1.東北大学機械系同窓会誌、第21号、平成29年、東北大学機械系同窓会、平成29年9月29日
2.東北大学機械系同窓会誌、第22号、平成30年、東北大学機械系同窓会、平成30年9月28日
3.第3期ふるさと秋田元気創造プラン、秋田県、平成30年3月
4.例えば、2018年6月20日 日経電子版、「航空機の電動化で連携 秋田の研究者が連合組織」

本文(その1)

日本のジェットエンジン技術史(続)

1.はじめに

昨年の第21号技術史のコーナーに日本のジェットエンジンの技術史の寄稿を依頼され「ネ20に始まった日本のジェットエンジン~今日、防衛用はP-1固定翼哨戒機用エンジン実用化、民間用ではB777用世界最大級エンジンの国際共同開発参画へと歩む~」と題して3ページに要約して掲載させていただいた。この度続編として執筆する機会をいただいたので、今回は前号を補完する形で、最近のできごと、また、今回事務局からの依頼趣旨、すなわち「先輩方にご専門の『技術』の歴史をご紹介いただくことで、未来の「技術」の潮流を考える一助となるのではという思い」に少しでも応えること、を念頭において読者の方に紹介をしたい。なお、この原稿をしたためている間に、英国ファンボロー航空ショーが開催され、またボーイングによる新たな超音速機コンセプトの発表、IHIによる将来戦闘機用実証エンジンXF9-1のプレスリリースなどが飛び込んできており航空界に賑わいを提供している。

2.日本が研究開発してきたジェットエンジンの歴史概要(続)

防衛用エンジンの歴史概要を前号で紹介したが、最近さらに高性能化したXF9-1の開発状況がIHIから紹介されている(1)。XF9-1の場合は将来の戦闘機用を目指した推力15トン級ジェットエンジンのプロトタイプエンジンである。タービン入口温度はF3が1050℃、XF5が1600℃であることを考えると1800℃と挑戦的レベルである。XF9-1は,世界最先端のコンピュータシミュレーションを駆使した設計技術や,日本が世界に誇る材料技術・加工技術を随所に採り入れた戦闘機用エンジンのプロトタイプエンジンで、セラミックス基複合材料(CMC)を高圧タービンなどに利用するなど世界最先端技術を取り入れている。また、これまで日本では超音速飛行を可能とするためのジェットエンジンの再熱装置(アフタバーナ)(2)の技術はなかったが、F3エンジンにアフタバーナを装着して推力をほぼ倍増したXF3-400を開発している。その技術をさらに発展させたXF5、そして今回のXF9-1である。図1にXF9-1の外観写真を示す。

図1 将来戦闘機用実証エンジン
XF9-1(1)(掲載略)

防衛用エンジンでは、固定翼航空機の他に回転翼航空機(ヘリコプタ)用エンジンの国産開発も言及しておく。1991年から1998年に観測ヘリコプタOH-1搭載用としてTS1-10エンジンがMHIを主契約者としてIHI、KHIが協力する形で開発されている。出力約940馬力の小型ターボシャフトエンジンで日本初の回転翼航空機用エンジンの開発であることや1段で圧力比10という野心的な遠心式圧縮機の採用、有人機用量産エンジンとしてFADEC(Full Authority Digital Electronic Control)によるデジタルエンジン制御を採用している点も国内開発としては初めてである。
民間航空用エンジンの場合、国際共同開発が潮流であり、多くの日本企業がそれぞれの得意分野を生かして参画していると前号で紹介した。IHIの場合を例として図2(3)に示す。これらの共同開発では多くの場合、リスク・アンド・レベニュー・シェアリング・パートナーシップ(RSP)という、開発費の分担に応じて収益が分配される方式となっている。共同開発パートナーはGE(米国)、プラットアンドホイットニー(米国)、ロールスロイス(英国)などである。エンジン機種としては、大型機(B777など)、中大型機(B787など)、狭胴機(A320など)、小型機(エンブラエルなどリージョナル機)向けと多岐にわたっており、分担比率も10%弱(GE90)から30%程度(CF34)となっている。担当部位もV2500の場合では日本担当部位はファンや低圧圧縮機であったが、その後、例えばCF34の場合、ファンロータや高圧圧縮機後段、低圧タービンモジュール、低圧シャフトなどまでに範囲が広がっている。担当部位拡張には効率や軽量化に貢献する新技術の適用が望まれ、例えばV2500後継機種であるPW1100G―JMではファンケースと、ファンケースを支え空気の流れを整える部品(構造案内翼)には世界初といわれるCFRP技術が採用されている。
また、小型ジェット機ホンダジェットに搭載されているHF120小型ターボファンエンジンを挙げておこう。当初、同機用エンジンは国内で開発が行われていたが(4)、現在はGEホンダエアロエンジンが取り扱っている。

図2 民間航空用エンジン開発(3)(掲載略)

3.下支えをする技術開発史概要

上述の製品化されたエンジン技術を支える技術開発がわが国では製品化と並走あるいは先行して行われている。XF9-1もそうだと言えるし、古くは、前述のFJR710もそうであった。また、次世代超音速輸送機用エンジンをも視野に入れて基盤的な技術開発を行ったHYPRプログラム(1988~1997)やESPRプログラム(6)(1999~2003)、先進材料とその適用の研究を行ったAMGプ
ログラム(7)(1993~2002)やMGCプログラム(2001~2005)、そして環境適応型の小型航空機用エンジンに向けたエコエンジンプログラム(2003~2012)などがある。これらのプログラムは国の支援を得て行われている。技術力向上ため、空力・燃焼・伝熱・材料、制御など各分野の先進要素技術の開発が行われている。これらの中には開発された要素を組み合わせた試作エンジンによる試
験を実施してインテグレーション技術力の実証を行ったプログラムもある(FJR710、HYPR、ESPR)。
1980年代に次期支援戦闘機(現在のF2戦闘機)の国産化計画に際して政治・経済・技術的理由により機体は日米共同開発、エンジンは米国からのライセンス生産となった。当時、わが国では戦闘機用エンジン技術が獲得されておらず、その理由のひとつに高空性能試験設備(ATF)を有していなかったこともあげられているが、その後、北海道千歳に空力推進研究施設として整備されている(2005年)。

4.将来の動向と課題は?

航空機に求められるのは、特に民間用は効率化、環境適合性(騒音、排ガス)などがある。ジェットエンジンの場合、推進効率と熱効率の両方の向上が必要であるが、推進効率の点では機体速度にマッチした排気噴流速度が必要で、亜音速機の場合は、高バイパス比ターボファン化であろう。そのため、技術的にはファン翼の大型化と軽量化で、材料と構造の進化が求められよう(例えば、翼の材料は無垢のチタン材→中空チタン材(ハニカム構造で内部強化)→複合材)。ファンを駆動するタービンは高速の方が効率はいいが一方ファンを高速化すると翼先端の空力的問題が発生するのでゆっくりと廻したい。ここでタービンとファンの間にギアを介在する、ギアドファンエンジンが多く出現する可能性がある。また、熱効率の点からはタービン入口温度が高いほど有利であり材料や構造の進化が望まれる。地球温暖化抑制のためには長期的には水素燃料が望まれ、この方がタービン入口温度を石油燃料よりも高く取れるので有利と思われる。しかし、石油燃料は使い勝手がいいので、地上用などの燃料は可能なだけ石油に頼らず、石油は航空用に使用する、いわゆるノーブル・ユースとして付加価値の高い使い方として残存させるのが人類として賢明であろう(8)。
国際航空運送協会(IATA、国際線を運航する事業者団体))では2050年までに2005年比で50%以上のCO2排出量削減を目標としている。この場合、航空機の電動化や航空エンジンの電動化は長期的技術革新テーマとして登場してくる(9)。
NASAでは2011にかけて航空機やエンジンメーカー数社と大学や研究所を動員して20年後の革新的な旅客機の概念についての研究を行っている(10)。1998年の航空機を基準として燃料消費で50%、NOX排出量で50%、空港周辺の騒音影響区域の面積を83%低減することが可能との見通しを得たという。この目標を達成できるという代表的な機体は、ボーイングのハイブリッド・ウイング・ボディー機(ブレンディッド・ウイング・ボディー機とも言い、翼と胴を一体的に設計する概念)でギアドファンを搭載する方式、ロッキード・マーチンのボックス・ウイングでバイパス比が現用機の5倍もある超高バイパス比エンジンを搭載するもの、ノースロップ・グラマンのフライング・ウイング機で、エンジンが翼内に埋め込まれていて騒音に対してシールド効果がある方式などがある。この一連の研究の中で各種の先進エンジンについても検討されていて、その主なものとしては、全電気式ターボファン、燃料電池使用ハイブリッドガスタービン、先進ガスタービン、電気式ハイブリッドガスタービンなどがあり、将来的には燃料電池などを併用して、より電気に依存したガスタービンが想定されている。例えば、最近のNASAのウェブサイト(11)によれば、詳細に検討が進められているのではN3―X機体であり(図3)、翼端部に左右2基のターボシャフト発電機を備え、14~15基程度の電動ファンを配置している。境界層吸い込み効果を期待して翼胴機体の胴体上面に左右方向隙間なくファンが配置されている。液体水素を使用している。
唯一の超音速旅客機であったコンコルドが商用運航をやめてから久しい。ボーイングが音速の5倍で飛ぶ超高速旅客機のコンセプトを発表した(12)。高度9万5,000フィート(2万9,000m)をマッハ5(時速6,120km)で飛行する。マッハ5以上のスピードを「極超音速(ハイパーソニック)」と呼ぶが、太平洋なら3時間程度で飛ぶことになる。エンジンに関しては、ボーイングのコンセプトモデルはターボ・ラムジェットというシステムを採用している。ターボ・ラムジェットエンジンは、飛行速度に応じてラムジェットエンジンとターボジェットエンジンを切り替える仕組みのエンジンである。2つのエンジンはエアインテーク(空気の取り入れ口)を共有し、マッハ2~3まではターボジェットに吸気するが、それより早くなるとバイパスフラップを閉じてラムジェットエンジンとして動作するようになる。これが国際共同開発になれば日本もHYPRやESPRで培った技術で貢献できるかもしれない。
なお、極超音速とまではいかなくとも超音速ビジネスジェットも考えられる。衝撃音抑制の研究も進んでいるようだし小型の機体の場合は騒音の点でも有利とされている。
防衛用であるが、現状ニーズから言えば、F2戦闘機の後継機が必要となる。新聞報道では輸入、国産化、共同開発といろいろと選択肢が言われているが、エンジンについていえばXF9-1あるいはそれを向上させた技術をぜひ活用することを期待したい。

図3 NASA N3-X(11)(掲載略)

5.おわりに

ジェット機やジェットエンジンを世界で3番目に実用化した日本であったが、戦後7年間の航空関連一切の活動が禁止された空白期間は日本の航空技術発展に大きな痛手であった。筆者の感覚で彼(欧米)我(日本)の実力差をあえていうと、最も技術的に難易度の高い戦闘機用エンジンにおいては、彼は実用化レベル、我は試作レベルと思われる。ただし、材料や空力分野において日本はユニークな技術を有しており、実用化におけるプログラムが実現すれば一気にその差は縮まるであろう。民間エンジンにおいては、エンジン全体をまとめあげる経験は実用化レベルにおいて我はその経験が皆無にひとしく欧米との共同開発においてのみなされている、と言える。防衛用そして下支えをする技術開発においてはエンジンをまとめあげる実力は有しているので、日本がエンジンをまとめあげる力は、すぐそばまできている感じがする。産官学の力を結集して実力涵養して世界に貢献することが望まれる。次はその機会を得ることであろう。
世界の航空機産業の伸びは、ボーイングの予測(13)にしても年率約4%超であり、日本の伸びもこれに呼応して伸びている。国内においても47都道府県のうち28ほどの都道府県が航空機産業に新規あるいはさらに参入しようとしている。この機運を是非活かしたいものである。
ジェットエンジンの過去の技術、今後の技術予測を見たときに特に「回転機械」の良し悪しが勝負の決め手になるとも思うし、機械工学の重要性は将来も変わらないであろう。
最後になるが、日本のジェットエンジンの先駆者としての永野治氏(14)(IHIもと副社長)、岡崎卓郎氏(15)(東大名誉教授)には筆者が現役時代にジェットエンジン研究開発において社内研究会でご指導いただいたこと、また棚澤泰氏(14)(東北大学名誉教授)には講義やトヨタ中央研究所名誉所長時代に「ネ20」ジェットエンジンの戦時中の図面をお借りしたことなどお世話になった。また、名前は略すが東北大学の先生方にはジェットエンジン関連共同研究やご指導でお世話になり、この紙面を借りて感謝いたします。また、執筆の機会を与えていただいた機械系同窓会、同事務局に謝意を表します。

文献
(1)IHIプレスリリース(2018年6月29日)http://www.ihi.co.jp/ihi/all_news/2018/aeroengine_space_defense/2018-6-29/index.html
(2)佐藤幸徳・柏木武、「最近のジェット・エンジン アフタバーナ技術」、航空技術 1985年3・4・5・6月号、日本技術協会、1985
(3)渡辺康之、「航空機用エンジン事業の歴史と今後」、平成25年度第1回SJAC講演会、2013年4月9日、http://www.sjac.or.jp/common/pdf/info/news125.pdf
(4)(財)経済産業調査会 編、「飛翔 航空機産業公式ガイドブック」、(財)経済産業調査会、2008
(5)「特集 国産ジェットエンジンの新展開」、日本ガスタービン学会誌、34巻3号、日本ガスタービン学会、2006
(6)藤綱義行 他、「ESPRプロジェクトの概要」、日本ガスタービン学会誌、32巻5号、日本ガスタービン学会、2004
(7)弘松幹雄 他、「AMGプロジェクトの概要」、日本ガスタービン学会誌、30巻3号、日本ガスタービン学会、2002
(8)佐藤幸徳、「ガスタービン」、日刊工業新聞社、2018年5月(6刷)
(9)「特集 航空機用ガスタービンの最新動向」、日本ガスタービン学会誌、43巻3号、日本ガスタービン学会、2015
(10)石澤和彦、「ジェットエンジン史の徹底研究」、グランプリ出版、2013
(11)NASAウェブサイトN3-X with Turboelectric Distributed Propulsion、https://ntrs.nasa.gov/archive/nasa/casi.ntrs.nasa.gov/20150002081.pdf
(12)「BOEING’S PROPOSED HYPERSONIC PLANE IS REALLY, REALLY FAST」https://www.wired.com/story/boeing-hypersonic-mach-5-jet-concept/
(13)BOEING、「Commercial Market Outlook 2018-2037」、2018.7.17、http://www.boeing.com/resources/boeingdotcom/commercial/market/commercial-market-outlook/assets/downloads/2018-cmo-07-17.pdf
(14)「特集 わが国におけるガスタービン研究・開発の先駆者(その1)」、日本ガスタービン学会誌、46巻1号、日本ガスタービン学会、2018
(15)「特集 わが国におけるガスタービン研究・開発の先駆者(その2)」、日本ガスタービン学会誌、46巻3号、日本ガスタービン学会、2018
(16)長島利夫、「ガスタービンの発明と技術変遷―航空用エンジンを主テーマにして」、日本ガスタービン学会誌、36巻2号、日本ガスタービン学会、2008
(17)「特集 歴史に見るガスタービンの発達プロセス」、日本ガスタービン学会誌、36巻3号、日本ガスタービン学会、2008
(18)「日本ガスタービン学会創立40周年記念特集 ガスタービンのこれまでの40年とこれからの40年」、日本ガスタービン学会誌、41巻1号、日本ガスタービン学会、2013
(19)防衛技術ジャーナル編集部 編、「航空機技術のすべて」、(財)防衛技術協会、2005
(20)大依 仁 他、「航空機・エンジン電動化システムの技術開発」、IHI技報 Vol.57 No.4、2017
■ さとう・ゆきのり
グローカル政経総研
(元)(株)IHI
(元)秋田県立大学

本文(その2)

ネ20に始まった日本のジェットエンジン
~今日、防衛用はP-1固定翼哨戒機用エンジン
実用化、民間用ではB777用世界最大級エンジン
の国際共同開発参画へと歩む~

日本では昭和13年頃から航空用排気タービン過給機の開発が始まり、昭和16年頃に石芝、三菱、日立などで製作されていた。この排気過給機の圧縮機とタービンの間に燃焼器を設け、噴出ガスの運動エネルギーの形で取り出せばターボジェットエンジンとなる。イギリス、ドイツの最初のジェットエンジンはともに排気タービン過給機から出発し圧縮機は遠心式であった。
日本ではドイツ、イギリスの情報は知るべくもなく、全く独自に昭和17年海軍技術廠で種子島時休氏等によりジェットエンジンの開発が、排気タービン過給機をもとに始められる。昭和19年7月ドイツのBMW003Aジェットエンジンのキャビネ版写真1枚が潜水艦でもたらされる。これを参考にして、海軍空技廠は推力500kg級軸流ターボジェットエンジン(8段の軸流圧縮機、1段の軸流タービン、直流型燃焼器)の開発を進め、設計開始後わずか6ケ月で開発に成功、量産に入り、昭和20年7月には一式陸攻による飛行試験に成功する。推力475kgのネ20双発の飛行機「橘花」が初飛行したのは終戦直前の昭和20年8月7日であった。図1にネ20、図2に橘花の外観を示す。
当時、陸軍もジェットエンジンを開発していたが、終戦直前、海軍と陸軍が協働開発することになり、昭和19年7月陸海共同試作の軸流ジェットエンジン ネ130(推力900kg、石芝)、ネ230(推力885kg、中島・日立)、ネ330(推力1300kg、三菱)の開発が始まる。ネ130は正規回転数を達成したところで終戦を迎え、他も試運転初期あるいは組立の段階で終わっている(1)。ちなみに「ネ」は、燃焼噴射推進機に由来する(2)。
ネ20がBMWの模倣か?という疑問に対して、独自開発というのが今日の定説になっている。これまでの技術蓄積があってこそ設計製作が可能になったのであり、最近のネ20技術の詳細な検証によってもそのことが裏付けられている(3)。
この「ネ20」開発に当たって、詳細割愛するが、東北大学の沼知福三郎先生(圧縮機)、棚澤泰先生(燃焼器)が多大な貢献をしている(4)(5)(6)。

図1:「ネ20」エンジン(IHI)(掲載略)

図2:ネ20を搭載した日本初のジェット機「橘花」(3)(掲載略)
戦後、終戦とともに米軍の進駐、GHQによる7年間にわたる航空禁止令が布かれ、日本の航空に関する研究も産業も一時的に消滅した。再開までの空白は極めて大きく、この期間に世界のジェットエンジンとジェット機は大きく進歩した。
航空禁止令が解けると昭和27年から富士重工業が通産省の助成で戦後初のジェットエンジンJO-1の研究開発を開始、昭和28年にオールジャパンというべき日本ジェットエンジン(株)に引き継がれ、推力1200kg級の戦後初のジェットエンジンJ3が開発された。同社解散に伴い事業はIHIに引き継がれ、防衛庁の中間練習機T―1Bなどに使用される。
更に、昭和50年から防衛庁がIHIを主契約者として開発したF3ターボファンエンジン(推力約1.7トン)は中等練習機T-4に搭載され、ブルーインパルス用としても活躍しており、皆様にもおなじみと思われる。
また、対潜哨戒機P-3Cの後継として防衛省は固定翼哨戒機P-1を開発し,その搭載エンジンはIHIを主契約者として開発して,2013年から配備されつつある。搭載されるジェットエンジンは高バイパス比のF7ターボファンエンジンである。推力約6.1トンでP-1には4発搭載される。これとは別に,1995年から防衛省はアフタ・バーナ付き低バイパス比エンジンであるXF5-1(推力約5トン)の開発を開始し,これは2016年4月に初飛行したX-2先進技術実証機(ステルス性、高運動性飛行機)に双発で搭載された。戦闘機用エンジンでは性能評価の一つに推力/重量比があるが,8程度であり、このレベルは世界のトップクラスである。なお,前出のF7エンジンは、先行して開発していたXF5エンジンのコア(高圧圧縮機、燃焼器、高圧タービン)技術を活用しており,この性能も諸外国エンジンに引けをとらないレベルである。F3エンジンなどの開発に身をおいたことのある筆者にとっても、これらの機種玉成はうれしい限りである。
ネ20、J3、F3はそれぞれ15年間隔で開発されているが、ネ20とF3を比較すると推力は3.4倍、長さは3/4、重さは約2/3になっており(7)、技術の進歩がわかる。
民間航空用ジェットエンジンは航空宇宙技術研究所(現JAXA)によるRJ100リフトエンジンを始めさまざまな研究を経て、やがて1971年から通産省の支援のもと産官学参加による大型プロジェクトとして、FJR710ターボファンエンジン(推力5トン)が開発された。短距離離着陸機「飛鳥」に搭載され試験飛行に成功した。これらの実績が世界で高く評価され、国際共同開発によるV2500エンジン(A320等に搭載)(日本側は日本航空機エンジン協会がとりまとめで日、英、米、独、伊の5ケ国が参加)へとつながっている。今日、民間エンジンの開発は、市場、資金面から国際共同開発が潮流だがこの草分けである。
現在、民間用エンジンではIHI、KHI、MHIなど多くの日本企業がそれぞれの企業の得意分野を生かし、モジュールや要素に特化し、B777やB787用などエンジンの国際共同開発に参画している。
また、防衛用分野においては全国産化を目指してエンジン全体、機体とのシステムインテグレーションの開発を行っている。
ジェットエンジンの将来動向としては効率化、環境適合性(騒音、排ガス)があり、そのために高温化技術、材料技術、IT等を活用したスマート制御・監視技術、燃料(水素化)が考えられる。また、異色だが電気推進(燃料電池も含む)、太陽光利用推進システムもあろうか。

文献
(1)八田桂三、「日本の航空エンジンの技術の歴史」、日本航空宇宙学会誌 第40巻第459号(1992年4月)(2)永野治、「戦時中のジェット・エンジン事始め」、鉄と鋼、第64年(1978)第5号(3)石澤和彦、「海軍特殊攻撃機 橘花―日本初のジェットエンジン・ネ20の技術検証」、三樹書房、2006年(4)沼知福三郎、「ジェット・エンジン性能の理論的研究(その1 研究経過及びネ20の説明)」、昭和28年3月(5)「第1回ガスタービンに関する座談会記録」、日本機械学会論文集、第17巻58号、昭和26年(6)棚澤泰、『極限状態での「ネ20」』、日本ガスタービン学会誌、10巻40号、1983年(7)石川島播磨重工業株式会社、「IHI 航空宇宙50年の歩み」、2007年6月
■ さとう・ゆきのり
公立大学法人秋田県立大学
地域連携・研究推進センター
(元IHI)